馬太傳 第18章
1其(その)とき弟子(でし)イエスに來(きたり)て曰けるは天國に於(おい)て大(おほい)なる者は誰(たれ)ぞや
2イエス嬰兒(をさなご)を召(よび)かれらの中(なか)に立(たて)て
3曰(いひ)けるは我(われ)まことに爾曹に告(つげ)んもし改(あらた)まりて嬰兒(をさなご)の若(ごと)くならずば天國(てんこく)に入(いる)ことを得(え)じ
4然(され)ば凡(おほよ)そこの嬰兒(をさなご)の若(ごと)く自ら謙(へりくだ)る者はこれ天國(てんこく)に於て大(おほい)なる者なり
5又(また)わが名の爲に此(かく)の如(ごと)き一人の嬰兒(をさなご)を接(うく)る者は我(われ)を接(うく)るなり
6然(され)ど我(われ)を信ずる此小子(ちひさきもの)の一人を礙(つまづ)かする者は磨石(ひきうす)をその頸(くび)に懸(かけ)られて海(うみ)の深(ふかみ)に沈(しづめ)られん方(かた)なほ益(えき)なるべし
7此世(よ)は禍(わざはひ)なる哉(かな)そは礙(つまづ)かする事(こと)をすればなり礙(つまづ)く事(こと)は必(かなら)ず來(きた)らん然(され)ど礙(つまづき)を來(きた)らす者は禍(わざはひ)なる哉(かな)
8若(も)し爾の手(て)なんぢの足(あし)おのれを礙(つまづ)かさば斷(きり)て之を棄(すて)よ兩手(りやうて)兩足(りやうあし)ありて盡(つき)ざる火(ひ)に投入(なげいれ)られんよりは跛(あしなへ)または殘缺(かたは)にて生(いのち)に入(いる)は善(よき)なり
9もし爾の眼(め)おのれを礙(つまづ)かさば拔出(ぬきいだ)して之を棄(すて)よ兩眼(りやうめ)ありて地獄(ぢごく)の火(ひ)に投入(なげいれ)られんよりは一眼(かため)にて生(いのち)に入(いる)は善(よき)なり○
10爾曹(なんぢら)この小子(ちひさきもの)の一人をも愼(つつし)みて輕視(あなどる)なかれ我(われ)なんぢらに告(つげ)ん彼等が天の使者(つかひ)は天にありて天に在(いま)す吾父(わがちち)の面(かほ)を常(つね)に覿(みれ)ばなり
11それ人の子は亡(ほろび)たる者を救(すく)はん爲(ため)に來(きた)れり
12爾曹(なんぢら)いかに意(おも)ふや人(ひと)もし百匹(ひやくひき)の羊(ひつじ)あらんに其一匹(いつぴき)まよはば九十九を山に置(おき)ゆきて迷(まよひ)し一(ひとつ)を尋(たづね)ざる乎(か)
13若(もし)たづねて之に遇(あは)ば我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告ん迷(まよは)ざる九十九の者よりも尚(なほ)その一を喜(よろこ)ばん
14是(かく)の如(ごと)くこの小子(ちひさきもの)の一人の亡(ほろぶ)るは天に在(いま)す爾曹が父(ちち)の尊旨(みこころ)に非(あら)ず
15もし兄弟(きやうだい)なんぢに罪を犯(をかさ)ばその獨(ひとり)ある時(とき)に往(ゆき)て諫(いさめ)よもし爾(なんぢ)の言(ことば)を聽(きか)ばその兄弟(きやうだい)を獲(う)べし
16もし聽(きか)ずば兩三人(りやうさんにん)の口(くち)に由(より)て證(あかし)をなし凡(すべて)の言(ことば)を定(さだめ)んが爲に一人(ひとり)二人(ふたり)を伴(ともな)ひ往(ゆけ)
17もし彼等(かれら)にも聽(きか)ずば敎會(けうくわい)に告(つげ)よもし敎會(けうくわい)に聽(きか)ずば之を異邦人(いはうじん)かつ税吏(みつぎとり)のごとき者(もの)とすべし
18我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告ん凡(おほよ)そ爾曹が地(ち)に於(おい)て繋(つなぐ)ことは天に於(おいて)もつなぎ爾曹が地(ち)に於(おい)て釋(とく)ことは天に於(おいて)も釋べし
19我(われ)また爾曹に告(つげ)んもし爾曹のうち二人(ふたり)のもの地(ち)に於て心を合(あは)せ何事(なにごと)にても求(もとめ)ば天に在(いま)す吾父(わがちち)は彼等の爲(ため)に之を成(なし)たまふべし
20蓋(そは)わが名(な)の爲に二三人の集(あつま)れる處(ところ)には我(われ)も其中に在(あれ)ばなり○
21厥時(そのとき)ペテロ イエスに來(きた)りて曰(いひ)けるは主よ幾次(いくたび)まで我(わが)兄弟の我(われ)に罪を犯(をか)すを赦(ゆるす)べきか七次(ななたび)まで乎(か)
22イエス彼に曰(いひ)けるは爾に七次(ななたび)とは言(いは)じ七次を七十倍(しちじふばい)せよ
23是故に天國(てんこく)は王(わう)その臣(けらい)と會計(くわいけい)を調(しらべ)んとするが如(ごと)し
24調(しら)べ始(はじめ)しとき千萬金(せんまんきん)の負債(ひきおひ)したる者を王(わう)に曳來(ひききた)りしに
25償(つくの)ひ方(かた)なかりければ之に命(めい)じて其身(み)その妻孥(つまこ)とあらゆる所有(もちもの)をみな鬻(うり)て償(つくの)へと曰(いへ)り
26その臣(けらい)ひれふして曰(いひ)けるは請(こふ)われを寛(ゆるく)し給(たま)はば皆(みな)償ふべし
27是(ここ)に於(おい)てその臣(けらい)の主憐(あはれ)みて之を釋(とき)その負債(ひきおひ)を免(ゆる)したり
28其臣(けらい)いでて己(おのれ)より銀(ぎん)一百の負債(ひきおひ)したる友(とも)に遇(あひ)ければ之を執(とら)へ喉(のんど)をとり負債(ひきおひ)を返(かへ)せと曰(いふ)
29その友足下(あしもと)に俯伏(ひれふし)て求(ねがひ)いひけるは我(われ)を寛(ゆるく)し給(たま)はば皆償(つくの)ふべし
30然(しか)るに之を肯(うけが)はずして往(ゆき)その負債(ひきおひ)を償(つくの)ふまで彼を獄(ひとや)に入(いれ)ぬ
31外(ほか)の友(とも)その爲(なせ)る事を見(み)て甚(はなは)だ哀(かなし)み往(ゆき)て此事(このこと)を皆(みな)その主(しゆ)に告(つげ)しかば
32主(しゆ)かれを召(よび)て曰けるは惡(あし)き臣(けらい)よ爾(なんぢ)われに求(ねがひ)しに因(より)て我(われ)その負債(ひきおひ)を悉(ことごと)く免(ゆる)したり
33我(わが)なんぢを憐(あはれ)みし如(ごと)く爾も亦友(とも)を憐(あはれ)むべきに非(あら)ずや
34その主(しゆ)いかりて負債(ひきおひ)をみな償(つくの)ふまで彼を獄吏(ひとやつかさ)に付(わた)せり
35若(もし)おのおの其心(こころ)より兄弟(きやうだい)を赦(ゆるさ)ずば我(わ)が天の父も亦(また)なんぢらに此(かく)の如(ごと)く行給(なしたま)ふべし
馬太傳 第17章
1六日(むいか)の後(のち)イエス ペテロ ヤコブその兄弟(きやうだい)ヨハネを伴(ともな)ひ人を避(さけ)て高山(たかきやま)に登(のぼ)り給(たまひ)しが
2彼等(かれら)の前(まへ)にて其容貌(すがた)かはり其面(かほ)日の如(ごと)く耀(かがや)き其衣(ころも)は白(しろ)く光(ひか)れり
3モーセとエリヤ現(あらは)れてイエスと偕(とも)に語(かたり)ぬ
4ペテロ答(こたへ)てイエスに曰(いひ)けるは主よ我儕(われら)ここに居(をる)は善(よし)もし尊旨(みこころ)に適(かな)はば我儕に三(みつ)の廬(いほり)を建(つくら)せたまへ一(ひとつ)は主のため一はモーセのため一はエリヤの爲(ため)にせん
5如此(かく)いへる時かがやける雲(くも)かれらを蔽(おほ)ふ聲(こゑ)雲より出(いで)て言(いひ)けるは此(こ)は我旨(わがこころ)に適(かな)ふわが愛子(あいし)なり爾曹(なんぢら)これに聽(きく)べし
6弟子(でし)これを聞(きき)て大(おほい)におそれ倒(たふ)れ伏(ふし)たり
7イエス來(きた)りて彼等に手(て)を按(つけ)おきよ懼(おそ)るる勿(なか)れと曰ければ
8其目(め)を舉(あげ)しに惟(ただ)イエスのほか一人(ひとり)をも見(み)ざりき○
9山を下(くだ)る時にイエス彼等に命(めい)じて人の子(こ)の死(し)より甦(よみがへ)るまでは爾曹(なんぢら)の見(み)し事を人に告(つぐ)べからずと言(いへ)り
10その弟子(でし)とふて曰けるは然(さら)ばエリヤは先(さき)に來(きた)るべし學者(がくしや)の云(いへ)るは何(なに)ぞや
11イエス答(こたへ)て曰けるは實(げ)にエリヤは來(きたり)て萬事(ばんじ)を改(あらた)むべし
12然(され)ど我(われ)なんぢらに告(つげ)んエリヤは既(すで)に來(きたり)しに人(ひと)これを知(しら)ずただ意(こころ)の任(まま)に彼(かれ)を待(あしら)へり此(かく)の如(ごと)く人の子もまた彼等(かれら)より苦難(くるしみ)を受(うく)べし
13是(ここ)に於(おい)て弟子(でし)バプテスマのヨハネを指(さし)て曰(いひ)たまへるを悟(さと)れり○
14彼等(かれら)おほくの人の居(をる)ところに來(きたり)しに或人(あるひと)イエスの所(もと)にきたり跪(ひざまづ)き
15曰けるは主(しゆ)よ我子(わがこ)を憫(あはれ)みたまへ癲癇(てんかん)にて屢々(しばしば)火(ひ)に倒(たふ)れ水(みづ)に倒(たふ)れ甚(はなは)だ苦(くるし)めり
16之(これ)を爾の弟子(でし)に携往(つれゆき)たれど醫(いや)すことを得(え)ざりき
17イエス答(こたへ)て曰けるは噫(ああ)信なき曲(まが)れる世なる哉(かな)われ何時(いつ)まで爾曹(なんぢら)と偕に居(をら)んや我(われ)いつまで爾曹を忍(しのば)んや彼(かれ)を我(わが)もとに携來(つれきた)れ
18遂(つひ)にイエス鬼(おに)を斥(いまし)め給(たま)へば鬼いでて其子(こ)この時(とき)より愈(いえ)たり
19其(その)とき弟子(でし)ひそかにイエスに來(きた)り曰けるは我儕(われら)これを逐出(おひいだ)すこと能(あた)はざりしは何故(なにゆゑ)ぞ
20イエス彼等に曰(いひ)けるは爾曹信(しん)なきが故(ゆゑ)なり我(われ)まことに爾曹に告(つげ)んもし芥種(からしだね)の如(ごと)き信(しん)あらば此(この)山に此處(ここ)より彼處(かしこ)に移(うつ)れと命(いふ)とも必(かなら)ず移(うつ)らん又(また)なんぢらに能(あたは)ざること無(なか)るべし
21然(され)ど此類(たぐひ)は祈禱(いのり)と斷食(だんじき)に非(あら)ざれば出(いづ)ることなし○
22ガリラヤを周流(めぐれる)ときイエス彼等(かれら)に曰けるは人の子人(ひと)の手(て)に解(わた)され
23かつ殺(ころ)されて第三日(みつかめ)に甦(よみがへ)るべし弟子(でし)これを聞(きき)て甚(はなは)だ哀(かなし)めり○
24彼等(かれら)カペナウンに來(きた)れるとき納金(をさめきん)を集(あつむ)る者どもペテロに來(きたり)て曰けるは爾曹(なんぢら)の師(し)は納金(をさめきん)を出(いだ)さざる乎(か)
25然(しから)ずと曰(いひ)てペテロ家(いへ)に入(いり)しときイエスまづ彼(かれ)に曰けるはシモン爾(なんぢ)は如何(いかに)おもふや世界(せかい)の王たちは税(ぜい)および貢(みつぎ)を誰(たれ)より徴(とる)か己(おのれ)の子よりか他(ほか)の者(もの)よりか
26ペテロ彼(かれ)に曰けるは他(ほか)の人(ひと)より徴(とる)なりイエス彼(かれ)に曰けるは然(さら)ば子は與(かかは)ることなし
27然(され)ど彼等を礙(つまづ)かせざる爲(ため)に爾海(うみ)に往(ゆき)て釣(つり)を垂(たれ)よ初(はじめ)につる魚(うを)を取てその口(くち)を啓(ひら)かば金一(きんひとつ)を得(う)べし其(それ)を取て我(われ)と爾の爲(ため)に彼等に納(をさめ)よ
馬太傳 第16章
1パリサイとサドカイの人(ひと)きたりてイエスを試(こころみ)んとて天の休徴(しるし)を我儕に見(み)せよと曰(いひ)ければ
2彼等(かれら)に答けるは爾曹暮(ゆふべ)には夕紅(ゆふやけ)に由(より)て晴(はれ)ならんと言(いひ)
3晨(あした)には朝紅(あさやけ)また曇(くもり)に由て今日(けふ)は雨(あめ)ならんといふ僞善者(ぎぜんしや)よ空(そら)の景色(けしき)を別(わかつ)ことを知(しり)て時(とき)の休徴(しるし)を別(わか)ち能(あた)はざる乎(か)
4姦惡(かんあく)なる世は休徴(しるし)を求(もとむ)るとも預言者(よげんしや)ヨナの休徴(しるし)のほか休徴を予(あたへ)られじ遂(つひ)に彼等を離(はな)れて去(さり)ぬ○
5その弟子(でし)むかふの岸(きし)に到(いたり)しにパンを携(たづさ)ふることを忘(わすれ)たり
6イエス彼等に曰(いひ)けるは戒心(こころ)してパリサイとサドカイの人の麫酵(ぱんだね)を愼(つつし)めよ
7弟子(でし)たがひに論(ろん)じて曰けるは是(これ)パンを携(たづさ)へざりし故(ゆゑ)ならん
8イエスこれを知(しり)て曰けるは信仰(しんかう)うすき者よ何(なん)ぞ互(たがひ)にパンを携(たづさ)へざりしことを論(ろん)ずる乎(や)
9未(いま)だ悟(さと)らざるか五千人に五(いつつ)のパンを予(あたへ)しとき幾筐(いくかご)ひろひし乎(や)
10また四千人に七(ななつ)のパンを予(あたへ)しとき幾籃(いくかご)ひろひしや爾曹(なんぢら)これを記(おぼえ)ざるか
11パリサイとサドカイの人の麫酵(ぱんだね)を愼(つつし)めとはパンにつきて言(いへ)るに非(あら)ざるを何(なん)ぞ悟(さと)らざる
12是(ここ)に於(おい)て弟子(でし)その麫酵(ぱんだね)にはあらでパリサイとサドカイの人の敎(をしへ)を謹(つつし)めと言(いへ)るなるを悟(さと)れり○
13イエス カイザリヤ ピリピの方(かた)に到(いたり)しとき其弟子に問て曰けるは人々は人(ひと)の子(こ)を誰(たれ)と言(いふ)や
14彼等(かれら)いひけるは或人(あるひと)はバプテスマのヨハネ或人はエリヤ或人はエレミヤまた預言者(よげんしや)の一人(ひとり)なりと言(いへ)り
15彼等に曰けるは爾曹(なんぢら)は我を言(いひ)て誰(たれ)とする乎(か)
16シモン ペテロ答(こたへ)けるは爾(なんぢ)はキリスト活神(いけるかみ)の子(こ)なり
17イエス答て彼(かれ)に曰けるはヨナの子(こ)シモン爾は福(さいはひ)なり蓋血肉(けつにく)なんぢに示(しめ)せるに非(あら)ず天に在(いま)す吾父(わがちち)なり
18我(われ)また爾に告(つげ)ん爾はペテロなり我(わ)が敎會(けうくわい)をこの磐(いは)の上(うへ)に建(たつ)べし陰府(よみ)の門(もん)は之に勝(かつ)べからず
19又(また)われ天國(てんこく)の鑰(かぎ)を爾に予(あた)へん爾が地(ち)に於て繋(つなぐ)ことは天に於(おい)ても繋(つなぎ)なんぢが地(ち)に於て釋(とく)ことは天(てん)に於ても釋(とく)べし
20遂(つひ)に其弟子(でし)を戒(いまし)めけるは我(われ)をキリストと人に告(つぐ)ること勿(なか)れ○
21此時(このとき)よりイエスその弟子(でし)に己(おのれ)のエルサレムに往(ゆき)て長老(としより)祭司の長學者等(がくしやたち)より多の苦(くるし)みを受(うけ)かつ殺(ころ)され第三日(みつかめ)に甦(よみがへ)る等(など)なすべき事を示(しめ)し始む
22ペテロ イエスを援(ひき)とめて主よ宜(よか)らず此事(このこと)なんぢに來(きた)るまじと曰(いひ)ければ
23イエス反顧(ふりかへり)てペテロに曰(いひ)たまひけるはサタンよ我後(わがうしろ)に退(しりぞ)け爾は我(われ)に礙(つまづ)く者(もの)なり夫(それ)なんぢは神の事を思(おも)はず人の事を思(おも)へり
24此時(このとき)イエスその弟子(でし)に曰けるは若(もし)われに從(したが)はんと欲(おも)ふ者は己を棄(すて)その十字架(じふじか)を負(おひ)て我に從(したが)へ
25そは生命(いのち)を保全(まつたう)せんとする者は之を失(うしな)ひ我(わが)ために其生命(いのち)を失(うしな)ふ者は之を得(う)べければ也(なり)
26もし人全世界(せかいぢゆう)を得(うる)とも其生命(いのち)を失(うしな)はば何(なん)の益(えき)あらん乎(や)また人なにを以(も)て其生命(いのち)に易(かへ)んや
27それ人の子は父(ちち)の榮光(えいくわう)を以(も)てその使等(つかひたち)と偕(とも)に來(きた)らん其時おのおのの行(おこなひ)に由て報(むく)ゆべし
28誠(まこと)に爾曹(なんぢら)に告ん人の子その國(くに)を以(も)て來(きた)るを見(みる)までは此(ここ)に立(たつ)ものの中に死(しな)ざる者あるべし
馬太傳 第15章
1時(とき)にエルサレムの學者(がくしや)とパリサイの人(ひと)イエスに來(きたり)て曰けるは
2爾(なんぢ)の弟子古(いにしへ)の人の遺傳(つたへ)を犯(をかす)は何故(なにゆゑ)ぞ盖(そは)食する時に其手(て)を洗(あらは)ざれば也
3答(こたへ)て彼等に曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)は亦なんぢらの遺傳(つたへ)によりて神の誡(いましめ)を犯(をかす)は何故(なにゆゑ)ぞ
4それ神(かみ)いましめて爾の父母を敬(うやま)へ又父母(ちちはは)を詈(ののし)る者は殺(ころ)さるべしと宣給(のたま)へり
5然(しか)るに爾曹(なんぢら)は曰(いひ)て凡(すべ)て人(ひと)父母に對(むかひ)なんぢを養(やしな)ふ可(べき)ものは禮物(そなへもの)なりと云(いは)ば
6その父母を敬(うやま)はずとも可(よし)とす斯(かく)て爾曹遺傳(つたへ)により神の誡を廢(むなし)くせり
7僞善者(ぎぜんしや)よイザヤは能(よく)なんぢらに就(つい)て預言(よげん)し
8此民(たみ)は口(くち)にて我に近(ちかづ)き唇(くちびる)にて我(われ)を敬(うやま)へども其心は我(われ)に遠(とほざ)かり
9人の誡を敎(をしへ)となして徒(いたづ)らに我を拜(はい)すと云(いへ)り
10イエス人々を召(よび)て彼等に曰(いひ)けるは聽(きき)て悟(さと)れ
11口(くち)に入るものは人を汚(けが)さず口(くち)より出(いづ)るものは是(これ)人を汚(けが)すなり
12弟子(でし)きたりてイエスに曰(いひ)けるはパリサイの人この言(ことば)を聞(きき)て厭棄(いとひすつ)ると爾知(しる)か
13答(こたへ)て曰けるは我(わ)が天の父(ちち)の植(うゑ)ざる者(もの)はみな拔(ぬか)るべし
14彼等を棄(すて)おけ瞽者(めしひ)の相(てびき)する瞽者(めしひ)なり若(もし)めしひのもの瞽者(めしひ)の相(てびき)せば二人(ふたり)とも溝(みぞ)に落(おつ)べし
15ペテロ イエスに答(こたへ)て曰けるは此譬(たとへ)を我儕に解(とき)たまへ
16イエス曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)も未(いま)だ悟(さとら)ざる乎(か)
17凡(すべ)て口(くち)に入(いる)ものは腹(はら)を運(とほり)て厠(かはや)に落(おつ)るを未だ知(しら)ざるか
18口(くち)より出(いづ)るものは心(こころ)より出(いづ)これ人を汚(けが)すもの也
19盖(そは)心より出(いづ)る所の惡念(あくねん)凶殺(きようさつ)姦淫(かんいん)苟合(こうがう)盜竊(たうせつ)妄證(もうしやう)謗讟(ばうとく)
20此等(これら)は人を汚(けがす)ものなり然(され)ども手を洗(あらは)ずして食(くら)ふは人を汚(けが)さず
21イエス此(ここ)を去(さり)てツロとシドンの地に往(ゆき)けるに
22其地(ち)に住(すめ)るカナンの婦(をんな)いでて呼(よば)はり曰(いひ)けるは主(しゆ)よダビデの裔(こ)よ我(われ)を憫み給(たま)へ我(わが)むすめ鬼(おに)に憑(つか)れて甚(いた)く苦(くるし)めり
23イエス一言(ひとこと)も彼(かれ)に答ざりしかば其弟子(でし)きたり請(こふ)て曰(いひ)けるは我儕(われら)の後(あと)より呼(よば)はるば故(ゆゑ)に彼(かれ)を去(さら)せ給(たま)へ
24答(こたへ)て曰けるはイスラエルの家(いへ)の迷(まよ)へる羊(ひつじ)の外(ほか)に我は遣(つかは)されず
25婦(をんな)きたり拜(はい)して曰(いひ)けるは主よ我(われ)を助(たすけ)たまへ
26答けるは兒女(こども)のパンを取(とり)て犬(いぬ)に投與(なげあた)ふるは宜(よろし)からず
27婦いひけるは主よ然(しかり)されど犬(いぬ)もその主人(しゆじん)の膳(ぜん)より落(おつ)る屑(くづ)を食(くらふ)なり
28遂(つひ)にイエス答て曰(いひ)けるは婦(をんな)よ爾(なんぢ)の信仰は大(おほい)なり願(ねがひ)の如(ごと)く爾に成(なる)べし此時(このとき)より其女(むすめ)いえたり○
29イエス此(ここ)を去(さり)ガリラヤの海邊(うみべ)にゆき山に登(のぼ)りて坐(ざ)せり
30多(おほく)の人々跛者(あしなへ)瞽者(めしひ)瘖者(おふし)殘缺者(かたは)および各樣(さまざま)の疾病(やまひ)ある者を伴(ともな)ひきたりイエスの足下(あしもと)に置(おき)ければ即(すなは)ち之を醫(いや)しぬ
31是(ここ)に於(おい)て瘖者(おふし)はものいひ殘疾(かたは)はいえ跛者(あしなへ)はあゆみ瞽者(めしひ)は見(みえ)たるを人々見(み)て奇(あやし)みイスラエルの神を榮(あがめ)たり○
32イエスその弟子(でし)を呼(よび)て曰けるは我(われ)この衆人(ひとびと)を憫(あはれ)む彼等(かれら)われと偕(とも)に居(をる)こと三日(みつか)にして食(くら)ふものなし飢(うゑ)させて去(さら)しむることを欲(このま)ず恐(おそら)くは途間(みち)にて惱(なやま)ん
33その弟子(でし)かれに曰けるは野(の)にて此(この)おほくの人に飽(あか)するほどのパンを何處(いづこ)より得(え)んや
34イエス彼等に曰(いひ)けるはパン幾何(いくつ)あるや答(こたへ)けるは七(ななつ)と些少(すこし)の魚(うを)あり
35イエス人々に命(めい)じて地(ち)に坐(すわら)しめ
36七のパンと魚を取(とり)て謝(しや)し之を擘(わり)て其弟子(でし)に予(あたへ)しかば弟子(でし)これを人々(ひとびと)に予(あた)ふ
37食てみな飽(あき)たり餘(あまり)の屑(くづ)を拾(ひろひ)しに七の籃(かご)に盈(みて)り
38之を食(くらへ)るもの婦(をんな)と孩子(こども)の外(ほか)に四千人ありき
39イエス人々を去(さら)しめ舟(ふね)に登(のり)てマグダラの境(さかひ)に至(いた)れり
馬太傳 第14章
1其(その)ころ分封(わけもち)の君(きみ)ヘロデ イエスの聲名(うはさ)を聞(きき)て
2その僕(しもべ)に曰(いひ)けるは是(これ)バプテスマのヨハネなり彼(かれ)死より甦(よみがへ)りたり故(ゆゑ)に異(ふしぎ)なる能(わざ)を行(おこな)ふなり
3前(さき)にヘロデその兄弟(きやうだい)ピリポの妻(つま)ヘロデヤの事に由(より)てヨハネを捕(とら)へ縛(しばり)て獄(ひとや)に入(いれ)たり
4此(こ)はヨハネ ヘロデに此婦(をんな)を娶(めと)るは宜(よろ)しからずと云(いひ)しに因(よる)
5彼(かれ)ヨハネを殺(ころ)さんと欲(おもへ)でも民(たみ)これを預言者(よげんしや)とするにより彼等(かれら)を懼(おそれ)たりしが
6ヘロデ誕生(たんじやう)の日(ひ)を祝(いは)へる時ヘロデヤの女(むすめ)その座上(ざじやう)にて舞(まひ)をなしヘロデを悦(よろこ)ばせければ
7何(いか)なる物(もの)にても求(もとめ)に任(まかせ)て予(あたへ)んとヘロデ之に誓(ちかひ)たり
8女(むすめ)その母(はは)の勸(すすめ)ありしに因(より)バプテスマのヨハネの首(くび)を盆(ぼん)に載(のせ)て此(ここ)に賜(たまは)れと曰(いふ)
9王憂(うれへ)けれども既(すで)に誓(ちかひ)たると席(せき)に列(つらな)れる者の爲(ため)に予(あたふ)ることを命(めい)じ
10即(すなは)ち人を遣(つかは)し獄(ひとや)に於てヨハネの首(くび)を斬(きら)せ
11その首(くび)を盆(ぼん)に載(のせ)て女に予(あたへ)ければ女(むすめ)は之をその母(はは)に捧(ささげ)たり
12ヨハネの弟子等(でしたち)きたりて屍(しかばね)を取(とり)これを葬(はうむ)り往(ゆき)てイエスに告(つぐ)
13イエスこれを聞(きき)て人をさけ舟(ふね)に登(のり)て其處(そこ)を去(さり)さびしき處(ところ)に往給(ゆきたま)ひしが衆人(ひとびと)ききて歩行(かち)にて彼に從(したが)へり○
14イエス出(いで)て多(おほく)の人を見(み)て之を憫(あはれ)み其病(やめ)る者(もの)を醫(いや)せり
15日(ひ)くるる時その弟子(でし)きたりて曰(いひ)けるは此(ここ)は寂寞(さびしき)ところにして時(とき)もはや遲(おそ)し諸邑(むらむら)に往(ゆき)て自ら食(しよく)を求(もとめ)させん爲(ため)に人々を去(さら)しめよ
16イエス彼等(かれら)に曰けるは人々往(ゆか)ずとも可(よし)なんぢら之(これ)に食を予(あたへ)よ
17答(こたへ)けるは我儕此(ここ)にただ五(いつつ)のパンと二(ふたつ)の魚(うを)あるのみ
18イエス曰(いひ)けるは其(それ)を此(ここ)に携來(もちきた)れ
19遂(つひ)に衆人(ひとびと)に命(めい)じて坐(すわら)しめ五のパンと二の魚(うを)をとり天を仰(あふぎ)て謝(しや)しパンを擘(わり)て弟子(でし)にあたふ弟子(でし)これを衆人(ひとびと)に予(あたへ)ぬ
20みな食(くらひ)て飽(あき)その餘(あまり)たる屑(くづ)を拾(ひろひ)しに十二の篋(かご)に盈(みち)たり
21食(くらひ)し者は婦(をんな)と幼童(こども)の外(ほか)おほよそ五千人(ごせんにん)なりき○
22頓(やが)てイエス衆人(ひとびと)を歸(かへ)さんとして其弟子(でし)を強(しひ)て舟(ふね)にのせ向(むかふ)の岸(きし)へ先(さき)に渡(わたら)しむ
23斯(かく)て衆人(ひとびと)を歸(かへ)しければ祈禱(いのり)せんとて密(ひそか)に山に上(のぼ)り日(ひ)くれて獨(ひとり)そこに在(いま)せり
24舟は海中(わだなか)に在(あり)て逆風(ぎやくふう)の爲(ため)に浪(なみ)に漂(ただよ)はさる
25夜(よ)の四時(よじ)ごろイエス海(うみ)の上(うへ)を歩(あゆみ)て之に至(いたり)しに
26弟子(でし)その海(うみ)の上(うへ)を歩(あゆめ)るを見(み)て驚(おどろ)き此(こ)は變化(へんげ)の物(もの)ならんと曰(いひ)て懼(おそ)れ叫(さけび)たり
27イエス頓(やが)て彼等(かれら)に曰けるは心安(やす)かれ我(われ)なり懼(おそ)るる勿(なか)れ
28ペテロ答て曰けるは主よ若(も)し爾ならば我(われ)に命(めい)じ水を履(ふみ)て爾の所(もと)に至(いたら)しめよ
29來(きたれ)と曰給(いひたま)ひければペテロ舟(ふね)より下(おり)てイエスの所(もと)に至(いたら)んとて浪(なみ)の上(うへ)を歩(あゆみ)たれど
30風(かぜ)の烈(はげし)きを見(み)て懼(おそ)れ沈(しづみ)かかりければ主(しゆ)よ我を救(たすけ)たまへと曰(いふ)
31イエス頓(やが)て手を伸(のべ)これを執(とらへ)て曰けるは信仰(しんかう)うすき者よ何(なん)ぞ疑(うたが)ふや
32偕(とも)に舟に登(のり)ければ風(かぜ)しづまりぬ
33舟に居(をり)し者ちかよりて彼を拜(はい)し曰(いひ)けるは誠(まこと)に爾は神(かみ)の子(こ)なり○
34遂(つひ)に渡(わたり)てゲネサレの地に到(いたり)しかば
35其處(そのところ)の人々イエスを識(しり)て遍(あまね)く四方(しはう)に人を遣(つかは)し凡(すべ)て病(やまひ)の者を携(たづさ)へ來らしむ
36只(ただ)その衣(ころも)の裾(すそ)に捫(さは)らんことをイエスに願(ねが)へり捫(さはり)し者は即(すなは)ちみな愈(いや)されたり
馬太傳 第13章30節~58節
30收穫(かりいれ)まで二(ふたつ)ながら長(そだて)おけ我(われ)かりいれの時(とき)まづ稗子(からすむぎ)を拔(ぬき)あつめて焚(やか)ん爲(ため)に之を束(つか)ね麥(むぎ)をば我(わ)が倉(くら)に收(をさめ)よと言(いは)ん○
31また譬(たとへ)を彼等(かれら)に示(しめ)し曰けるは天國は芥種(からしだね)の如(ごと)し人(ひと)これを取(とり)て畑(はたけ)に播(まけ)ば
32萬(よろづ)の種(たね)よりは小(ちひさ)けれども長(そだち)ては他(ほか)の草(くさ)より大(おほい)にして天空(そら)の鳥(とり)きたり其枝(えだ)に宿(やどる)ほどの樹(き)となる也(なり)○
33また譬(たとへ)を彼等に語(かたり)けるは天國は麫酵(ぱんだね)の如し婦(をんな)これをとり三斗(さんと)の粉(こ)の中(なか)に藏(かく)せば悉(ことごと)く脹發(ふくれいだ)すなり
34イエス譬(たとへ)をもて凡(すべ)て此等(これら)の事を衆人(ひとびと)に語(かたり)たまへり譬(たとへ)にあらざれば語(かた)り給(たま)はず
35これ預言者(よげんしや)に託(より)て我(われ)譬を設(まうけ)て口(くち)を啓(ひら)き世(よ)の始(はじめ)より隱(かくれ)たる事を言出(いひいだ)さんと云(いは)れたるに應(かなは)せん爲なり○
36遂(つひ)にイエス衆人(ひとびと)を歸(かへ)して室(いへ)に入(いれ)り其弟子(でし)きたりて曰(いひ)けるは畑の稗子(からすむぎ)の譬を我儕に解(とき)たまへ
37之(これ)に答て曰(いひ)けるは美種(よきたね)を播者(まくもの)は人の子なり
38畑(はたけ)はこの世界(せかい)なり美種(よきたね)は是(これ)天國の諸子(こども)なり稗子は惡魔(あくま)の子類(こどもら)なり
39之(これ)をまく敵(あだ)は惡魔(あくま)なり收穫(かりいれ)は世(よ)の末(をはり)なり刈者(かるもの)は天の使等(つかひたち)なり
40稗子(からすむぎ)の斂(あつめ)て火(ひ)に焚(やかる)る如(ごと)く此(この)世の末に於(おい)ても此(かく)の如(ごと)くなるべし
41人(ひと)の子(こ)その使者(つかひ)たちを遣(つかは)して其國(くに)の中(うち)より凡(すべ)て躓礙(つまづき)となる者(もの)また惡(あく)をなす人を斂(あつめ)て
42之(これ)を爐(ろ)の火(ひ)に投入(なげいる)べし其處(そこ)にて哀哭(かなしみ)切齒(はがみ)すること有(あら)ん
43此(この)とき義人(ただしきひと)は其父(ちち)の國(くに)に於(おい)て日(ひ)の如(ごと)く輝(かがや)かん耳(みみ)ありて聽(きこ)ゆる者は聽(きく)べし○
44また天國(てんこく)は畑(はたけ)に藏(かくれ)たる寶(たから)の如し人(ひと)みいださば之を秘(かく)し喜(よろこ)び歸(かへ)り其所有(もちもの)を盡(ことごと)く賣(うり)てその畑(はたけ)を買(かふ)なり○
45また天國は好(よき)眞珠を求んとする商人(あきひと)の如し
46一(ひとつ)の値(あたひ)たかき眞珠(しんじゆ)を見出(みいだ)さばその所有(もちもの)を盡(ことごと)く賣(うり)て之を買(かふ)なり○
47また天國(てんこく)は海(うみ)に投(うち)て各樣(さまざま)の魚(うを)をとる網(あみ)の如し
48既(すで)に盈(みつ)れば岸(きし)に曳(ひき)あげ坐(すわり)てその嘉(よき)ものを器(うつは)にいれ惡(あしき)ものを棄(すつ)るなり
49世(よ)の末(をはり)に於(おい)ても此(かく)の如(ごとく)ならん天の使等(つかひたち)いでて義者(ただしきもの)の中(うち)より惡者(あしきもの)を取(とり)わけ
50之を爐(ろ)の火(ひ)に投入(なげいる)べし其處(そこ)にて哀哭(かなしみ)切齒(はがみ)すること有(あら)ん○
51イエス彼等(かれら)に曰けるは此事(このこと)をみな悟(さとり)しや彼に曰けるは主(しゆ)よ然(しかり)
52イエス彼等に曰けるは然(され)ば天國(てんこく)について敎(をしへ)られたる學者(がくしや)は新(あたら)しき物(もの)と舊(ふる)き物(もの)とを其庫(くら)より出(いだ)す家(いへ)の主(あるじ)の如し○
53イエスこの譬(たとへ)を言畢(いひをはり)て此(ここ)を去(さり)ぬ
54その故土(ふるさと)にいたり會堂(くわいだう)にて敎(をしへ)しに人々奇(あやし)み曰けるは此人(ひと)の智慧(ちゑ)と異(ふしぎ)なる能(わざ)は何處(いづこ)より來(きた)るや
55これ木匠(たくみ)の子(こ)にあらずや其母(はは)はマリアその兄弟(きやうだい)はヤコブ ヨセ シモン ユダに非(あら)ずや
56その妹等(いもうとたち)はみな我儕(われら)と偕(とも)に在(ある)に非(あら)ずや然(しか)るに此(この)人の凡(すべ)て此等(これら)の事は何處(いづこ)より來(きたり)しや
57遂(つひ)に厭(いとふ)て之を棄(すつ)イエス彼等(かれら)に曰けるは預言者(よげんしや)は其故土(ふるさと)その家(いへ)の外(ほか)に於て尊(たふと)まれざることなし
58彼等が信(しん)ずることなきに由て多(おほく)の異(ふしぎ)なる能(わざ)を此(ここ)に行給(なしたま)はざりき
馬太傳 第13章1節~29節
1この日(ひ)イエス出(いで)て海邊(うみべ)に坐(ざ)せしに
2多の人々彼に集(あつま)り來(きたり)ければイエスは舟(ふね)に登(のり)て坐(ざ)し凡(すべて)の人々は岸(きし)に立(たて)り
3イエス譬(たとへ)を以(も)て多端(さまざま)の言(こと)を人々に語(かたり)ぬ種(たね)まく者播(まき)に出(いで)しが
4播(まけ)るとき路(みち)の旁(ほとり)に遺(おち)し種あり空中(そら)の鳥(とり)きたりて啄(ついば)み盡(つく)せり
5また土(つち)うすき磽地(いしぢ)に遺(おち)し種あり直(ただち)に萌出(はえいで)たれど
6日の出(いで)しとき灼(やか)れしかば根(ね)なきが故(ゆえ)に槁(かれ)たり
7また棘(いばら)の中(なか)に遺し種(たね)あり棘(いばら)そだちて之を蔽(ふさ)げり
8また沃壌(よきち)に遺(おち)し種あり實(み)を結(むす)べること或(あるひ)は百倍(ひやくばい)あるひは六十倍(ろくじふばい)あるひは三十倍(さんじふばい)せり
9耳(みみ)ありて聽(きこ)ゆる者は聽(きく)べし
10弟子等(でしたち)きたりて彼(かれ)に曰けるは何故(なにゆえ)に譬(たとへ)をもて彼等(かれら)に語(かた)り給(たま)ふや
11答(こたへ)て曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)には天國の奥義(おくぎ)を知(しる)ことを予(あたへ)たまへど彼等には予(あた)へ給(たまは)ざれば也
12それ有(もて)る者(もの)は予(あたへ)られてなほ餘(あまり)あり無有者(もたぬもの)はその有(もて)る物(もの)をも奪(とら)るる也
13彼等は視(み)ても見(み)ず聽(きき)ても聞(きか)ず悟(さとら)ざるが故(ゆゑ)に我(われ)譬を以(も)て彼等に語(かた)れり
14イザヤの預言(よげん)に爾(なんぢ)は聽(きけ)ども悟(さと)らず視(みれ)ども見(み)ず
15蓋(そは)この民(たみ)目にて見耳(みみ)にてきき心にて悟(さと)り改(あらた)めて我(われ)に醫(いや)されんことを恐(おそれ)その心を頑(にぶく)し耳(みみ)を蔽(をほ)ひ目を閉(とぢ)たりと云(いひ)しに應(かな)へり
16然(され)ど爾曹の目は見(み)爾曹の耳(みみ)は聞(きく)が故(ゆゑ)に福(さいはひ)なり
17われ誠(まこと)に爾曹に告ん多(おほく)の預言者(よげんしや)と義人(ただしきひと)は爾曹が見(みる)ところを見(み)んとしたりしが見(みる)ことを得(え)ず爾曹が聞(きく)ところを聞(きか)んとしたりしが聞(きく)ことを得(え)ざりき
18故(ゆゑ)に爾曹播種(たねまき)の譬を聽(きけ)
19天國の敎(をしへ)を聞(きき)て悟(さと)らざれば惡鬼(あしきもの)きたりて其心(こころ)に播(まか)れたる種(たね)を奪(うば)ふ是(これ)路の旁(ほとり)に播(まき)たる種なり
20磽地(いしぢ)に播(まか)れたる種(たね)は是敎(をしへ)を聽(きき)て速(すみや)かに喜(よろこ)び受(うく)れども
21己(おのれ)に根(ね)なければ暫時(しばし)のみ敎(をしへ)の爲に患難(くわんなん)あるひは迫(せめ)らるる事の起(おこ)る時は忽(たちま)ち道(みち)に礙(つまづ)く者なり
22また棘(いばら)の中(なか)に播(まか)れたる種は是(これ)敎を聽(きけ)ども此世(よ)の思慮(こころづかひ)と貨財(たから)の惑(まどひ)に敎(をしへ)を蔽(ふさが)れて實(みの)らざる者なり
23沃壌(よきち)に播(まか)れたる種(たね)は是敎(をしへ)を聽(きき)て悟(さと)り實(み)を結こと或(あるひ)は百倍(ひやくばい)あるひは六十倍(ろくじふばい)あるひは三十倍(さんじふばい)する者(もの)なり○
24また譬(たとへ)を彼等に示(しめ)して曰けるは天國(てんこく)は人畑(はたけ)に美種(よきたね)を播(まく)に似(に)たり
25人々の寢(いね)たる間(うち)に其敵(あだ)きたり麥(むぎ)の中(なか)に稗子(からすむぎ)を播(まき)て去(され)り
26苗(なへ)はえ出(いで)て實(みのり)たるとき稗子(からすむぎ)も現(あらは)れたり
27主人(あるじ)の僕(しもべ)きたりて曰(いひ)けるは主(しゆ)よ畑(はたけ)には美種(よきたね)を播(まか)ざりしか如何(いかに)して稗子(からすむぎ)ある乎(や)
28僕(しもべ)に曰けるは敵人(あだびと)これを行(なせ)り僕主人(あるじ)に曰けるは然(しか)らば我儕(われら)ゆきて之を拔(ぬき)あつむるは宜(よき)か
29否(いな)おそらくは爾曹稗子(からすむぎ)を拔(ぬき)あつめんとて麥(むぎ)をも共(とも)に拔(ぬく)べし